🎄静寂の美をまとう花の都——イタリア・フィレンツェのクリスマスを歩く

パリのシャンゼリゼのような眩いイルミネーションはない。
でも、フィレンツェのクリスマスには、それを超える心の温もりがある——。
私はかつて、冬のフィレンツェを歩きました。
石畳を照らす街灯の光がやわらかく、ドゥオーモのクーポラの上には淡い星が瞬いていました。
この街のクリスマスは、華美ではなく、まるで祈りのように静かです。
🕯ドゥオーモに響く祈りの音——フィレンツェのクリスマス・イブ
12月24日。サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)では、夜になると厳粛なミサが行われます。
外は冷たい空気に包まれ、人々はキャンドルを手に、静かに祈りの時を待ちます。
私もその群れの中に混じり、鐘の音を聞きながらただ見上げていました。
ステンドグラスの向こうからこぼれる光が、まるで希望のように降り注ぐ——
華やかさよりも、信仰と家族の絆を大切にするイタリアのクリスマスが、そこにはありました。
🎁イタリア流の“家庭のクリスマス”
イタリアでは、クリスマスは恋人よりも「家族と過ごす日」。
イブの夜には、魚料理を中心とした“ラ・ヴィジャリア(La Vigilia)”という食卓が囲まれます。
肉を避け、海の幸を味わうのは、古いカトリックの伝統。
翌25日は“ナターレ(Natale)”と呼ばれるクリスマス当日。
街中のレストランやカフェは休みになり、人々は家で家族と語り合い、ゆっくりと食事を楽しみます。
観光客には少し寂しく感じられる時間ですが、私はその“静けさ”に心を打たれました。
華やかな街灯も音楽もなく、ただ石畳の上に響く靴音だけ。
でもその静寂が、まるでこの街全体を包み込む毛布のように優しかったのです。
🌟プレゼーペ(Presepe)——イタリアのもう一つのクリスマスの顔
イタリアのクリスマスで欠かせないのが、プレゼーペ(キリスト降誕のジオラマ)。
街角の教会や、時には個人の家の窓辺にも、小さな馬小屋と聖母マリア、幼子イエスの人形が飾られます。
フィレンツェでも、サンタ・クローチェ教会のプレゼーペは特に美しく、信者でなくても思わず見入ってしまうほど。
煌びやかなツリーよりも、この素朴な人形たちこそがイタリアのクリスマスの象徴。
**「祈りのある美」**が、フィレンツェという街の静かな誇りを感じさせてくれました。
🍷冬の味覚と灯りに包まれて
冷たい空気の中を歩きながら、サンタ・マリア・ノヴェッラ駅近くの屋台でホットワインを一杯。
シナモンとオレンジの香りがほのかに漂い、指先まで温めてくれます。
すぐ隣では小さなジェラテリアがまだ営業していて、若者たちが笑いながらジェラートを食べていました。
「寒くてもジェラートは別腹!」
その明るさに思わず笑ってしまいました。
——たとえ冬でも、イタリアの甘さは消えないのです。
✨終章:静けさの中のぬくもり
パリが“光の都”なら、フィレンツェは“灯(ともしび)の都”。
それは眩しく輝くイルミネーションではなく、人々の心にともる小さな光。
クリスマスの夜、私はドゥオーモの前で立ち止まり、鐘の音に包まれながらふと思いました。
「派手さはなくても、この静けさこそ本当の豊かさかもしれない」と。
花の都の冬は、静かで、温かくて、少し切ない。
それが、私の心に残るフィレンツェのクリスマスです。



