トスカーナ、葡萄畑に抱かれて

――60代からの大人旅、ワイナリーを巡る幸せ
トスカーナの丘陵地帯を車で走ると、まるで絵画の中に迷い込んだような光景が広がります。糸杉の並木道、点在する石造りの農家、そして一面の葡萄畑。60代後半になった今だからこそ味わえる、ゆったりとした旅を、パートナーと共に楽しんできました。
ワインの歴史を辿る旅へ
トスカーナは、紀元前のエトルリア人の時代から葡萄栽培が行われていた土地。ローマ時代を経て修道院がその文化を守り、中世にはすでに「キアンティ」の名がヨーロッパに広まっていたといいます。長い歴史の中で受け継がれた知恵と土地の恵みが、現在のトスカーナワインを形づくっているのです。
キアンティ・クラシコの丘で
私たちが訪れたのは、フィレンツェとシエナの間に広がる「キアンティ・クラシコ地区」。ブドウ畑に囲まれたワイナリーでは、オーナー夫妻が温かく迎えてくれました。樽の眠るカンティーナを案内してもらい、熟成香が漂う中で試飲させてもらう赤ワインは、口に含むたびに奥深い表情を見せてくれます。
パートナーは「骨格がしっかりしていて、余韻が長い」とワイン評論家のような感想を述べ、私はただ「美味しいね」と微笑む――そんな会話も旅の醍醐味です。
サン・ジミニャーノで味わう白ワイン
トスカーナは赤のイメージが強いのですが、中世の塔の街サン・ジミニャーノでは「ヴェルナッチャ」という白ワインが名物。かつてダンテやロレンツォ・デ・メディチも愛したと伝えられる一本は、爽やかな酸味が魅力で、地元のペコリーノチーズとの相性は抜群でした。
ワインと人生を重ねて
ワインは「熟成を重ねるほどに味わいが深まる」と言われます。それはまるで人生そのもの。若い頃の旅は新鮮な驚きと勢いに満ちていましたが、今は落ち着いて土地の歴史や文化に耳を傾け、ゆっくりと味わうことに喜びを感じます。
丘の夕暮れ、金色の光に染まる葡萄畑を眺めながら、グラスを傾ける――。この瞬間のために旅をしているのだと、静かに確信しました。



