寄り道が、旅を深くする ― 夏のフランチャコルタ紀行

― フランチャルコタで過ごした、静かな贅沢 ―

昨年の8月、私たちはスカイチーム・エールフランス便でミラノ・マルペンサ空港に降り立った。
真夏のイタリアらしい、少し乾いた空気とまぶしい光。
空港を出た瞬間、「ああ、来たね」と自然に笑みがこぼれる。

今回の旅の目的地はヴェネツィア。
けれど、その途中にどうしても立ち寄りたかった場所があった。
ロンバルディア州東部、イゼオ湖の南に広がるフランチャコルタ。

スパークリングワイン好きなら、一度は耳にする名だ。
シャンパーニュ方式で造られるイタリア最高峰の泡。
40代になった今だからこそ、
「ただ飲む」のではなく、「土地ごと味わいたい」と思った。

ミラノから車で走ると、景色は次第に穏やかになる。


イゼオ湖の両翼に広がる丘陵は、緑が幾重にも重なり、
その斜面を縫うようにブドウ畑が続いている。
観光地然とした派手さはなく、
そこにあるのは、長い時間をかけて育まれた“日常の美しさ”。

訪れたワイナリーは、想像以上に静かだった。
石造りの建物、ひんやりとしたカーヴ、
樽の並ぶ空間に漂う、発酵と木の香り。
グラスに注がれたフランチャコルタは、
きめ細かな泡が、音もなく立ち上る。

ひと口含むと、
爽やかさの奥に、しっかりとした骨格と深み。
「若い頃なら、ここまで分からなかったかもね」
そう言い合いながら、静かにグラスを傾ける。

テイスティングの合間に見渡す丘陵の風景。
真夏の太陽の下でも、どこか涼やかで、
時間がゆっくり流れているように感じた。
無理に盛り上げなくてもいい、
沈黙すら心地いい旅。

夕方、ワイナリーを後にしてヴェネツィアへ向かう車中、
「この寄り道、正解だったね」
その一言に、すべてが詰まっていた。

フランチャコルタは、
大人になった私たちにちょうどいい場所だった。
派手さはないけれど、確かな味わいがあり、
静かに心に残る。

この夏の記憶は、
きっと次にグラスを手にした瞬間、
あの丘陵の風景とともによみがえるのだと思う。

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