石畳の時間に迷い込む


― サルラ・ラ・カネダ、旧市街を歩く ―




南西フランス、ドルドーニュ地方。

列車を降りた瞬間、空気が少し変わったのが分かった。

パリとも、プロヴァンスとも違う、

どこか素朴で、ゆっくりとした時間が流れている町――

サルラ・ラ・カネダ。

私たちは20代後半。

「有名だから」という理由だけでは、

もう旅先を選ばなくなってきた頃だ。

写真だけでなく、

その場所が積み重ねてきた時間を、

少しだけ知りたくなる。

旧市街へ足を踏み入れると、

そこはまるで中世の迷路だった。

蜂蜜色の石で造られた建物が、

細い路地を包み込むように立ち並ぶ。

サルラが栄えたのは、中世からルネサンス期にかけて。

百年戦争の時代、この町は戦火を巧みに避け、

多くの建物が破壊されずに残った。

そのため、旧市街全体が

「生きた歴史資料」とも言われている。

石畳を歩くたび、

ヒールが少しだけ引っかかる。

でも、それすら楽しい。

「この道、何百年も前からあるんだよね」

そんな会話を交わしながら、

自然と歩く速度が遅くなる。

町の中心、ラ・リベルテ広場。

カフェのテラスが並び、

観光客と地元の人が入り混じる。

どこか賑やかなのに、騒がしくない。

かつてこの広場では、

市場が開かれ、

宗教行事や祝祭が行われてきた。

今も週に数回、市が立ち、

フォアグラやナッツ、トリュフ製品が並ぶ。

「歴史の町」なのに、

決して博物館みたいじゃない。

人が暮らし、笑い、食べている。

それが、サルラの一番の魅力かもしれない。

サン・サセルドス大聖堂の前で立ち止まる。

質素だけれど、力強い佇まい。

巡礼路の町としての役割も果たしてきたサルラは、

信仰と商いが自然に共存してきた場所だ。

私たちは、

「若いからこそ勢いで旅をする」時期を少し過ぎて、

「若いけれど、意味も感じたい」

そんな地点に立っている。

路地裏の小さなブティックを覗き、

石壁に寄り添うようなカフェで一息つく。

スマートフォンの地図は、ほとんど見ない。

迷っても、困らない町だから。

夕方、石の建物がオレンジ色に染まり始める。

サルラが「最も美しい村のひとつ」と言われる理由を、

この光が教えてくれる。

「ここに来てよかったね」

その一言に、

特別な感想はいらなかった。

サルラ・ラ・カネダは、

何かを強く主張する町ではない。

ただ静かに、

旅人を中世の時間へ招き入れてくれる。

20代後半の私たちにとって、

この町は、

“次の旅の仕方”を教えてくれる場所だった。

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